ふたりを包んで夜はゆく
「おい、世良」
 声をかければ、だらしない姿勢でソファにもたれかかり、だらしなく腕を持ち上げてテレビのチャンネルを変える世良の、「ふぁあい」、やはりだらしのない間の抜けた返事が聞こえた。
「お前、そろそろ帰らないと門限間に合わないんじゃねえの」
「んー、もうそんな時間っすか」
「もう、そんな、時間だよ」
 意味もなく押し続けていたリモコンを放り出し、投げ出していた携帯を掴むと液晶のモニターを一瞥し、「ほんとだ」、そのままポケットにでもしまうのかと思いきや、再びそれを脇に置いて。
「でもまあ、問題ないっす」
 世良は言う。
「外泊届け、出してきましたし」
「は、あ?」
「こういうのなんていうんでしたっけ……あー!そーそー、センケンノメー、とかなんとか」
「聞いてねえぞ」
「あれ?言いましたよね?」
「……どこ泊まんだよ」
「どこって……ここしかないじゃないすか」
「なんで俺が聞いてないんだよ、てか、ここはどこだよ」
「堺さんち。うーん、言ってなかったっけかなあ……」
 「すんません」、けろりと笑う世良に悪気はないのだろう。確信犯を装って何かを画策する知恵もなければ、それを隠し通し、やり遂げる賢さを持ち合わせているとも思えない。

 天然は、性質が悪い。

 大きく吐いたため息の中に世良は、俺の意図することを、こんな時ばかりは敏感に正確に汲み取って。
「すんません」
 形ばかりの謝罪の言葉を再び口にすると、目を細めて笑う。
 それから、
「堺さん」
 じりとにじり寄ってくるから。
「いやだ」
 先制パンチよろしく、結論を告げてみた。やられっぱなしは面白くない。なんでもかんでも世良の思い通りになどさせてなるものか。
「えー、どうして」
「明日、早いんだよ、俺は」
「オフじゃないすか」
「高校んときのダチとフットサル」
「うっは、なにそれ、超楽しそう!俺も混ぜてくださいよ!」
「いいけど……遠いし、けっこう早めに出ないと間に合わ、」
「ぜんぜんオッケーすよ!起きる、起きる!ちゃんと起きますから。楽しみだなー」
「あー、はいはい、そんならさっさと、」
 寝ろ、と続けようとして、でも、と返された。
「でも、それとこれとは、話、別っすからね」
 「ねえ、堺さん」、世良の笑い顔が計算ずくのものなら、いっそのこと楽なのに、と思う。煩い、黙れ、今すぐ帰れ。首根っこを引っつかんで、睨まれようと暴れられようと喚かれようと、ドアの向こうに蹴りだしてやるのに、と。
「ちょっとだけ」
 ちょっとですんだことが、あるのかよ。
「ね、少しだけ」
 少しですませる気なんて、さらさらないくせに。
「たのんます!お願い!」
 両手をパンと合わせて、両目をぎゅうと瞑る。

 これだから、天然は性質が悪い。

 いや、性質が悪いのは俺の方だろうか。
 世良が俺に対して、誰に対しても、単純極まりない言動で接することを分かっていて。家に上げるのだって初めてじゃない。一度や二度じゃないのだから、世良の行動パターンは分かっていたはずで。
 こうなることは、十二分に予測できていたはずなのに、それなのに――――
「……たく」
 手のひらをすり合わせていた世良が、ちろりと片目だけを開けた。
「やるなら、さっさとやれ。言っとくけど、明日はきっちり出るからな」
 いったい、目の前にある俺の表情から何を読み取ったというのか。
 世良、は。
「え、へへ」
 顔をくしゃりと大きく歪ませて。
「そうこなくっちゃ!」
 声を上げて、笑った。

 まったく、世良は、性質が悪い。  
「おりゃ!」
「あ、おま、ふざけんな!」
「へっへーん」
「だいたいお前、なってねえよ。マリオは先輩に譲るべき」
「勝負に先輩も後輩もないっす、てゆーか、堺さん、なんでルイージ選ばないんすか」
「ばか、何が楽しくてオフまでルイジなんだよ」
「ルイジじゃなくてルイージ」
「似たようなもんだろ」
「そっすか?」
「そうだよ……ああ、てことは、世良、お前、ジーノの兄貴なわけね」
「え?王子の?まじ?」
「まじまじ」
「……び、みょーな感じすね……それ」
「まあ、そういうな……お!チャンース!」
「あ、げ、うわ……あー、信じらんねえ……えげつねーピーチ姫」
「ふん、ざっまーみろ」


以下エンドレス

たぶんマリオカート……?古っ!