真夜中のピンポン
 アホな天気予報士の予報が外れるのと同じくらい、深夜にピンポンピンポン部屋のチャイムを鳴らされることが心底嫌いになった、ある日の出来事。


 はいはい、なんですか。男ですからチャイム鳴らされて出えへんなんて卑怯な真似はしませんよ。きっちりトイメン張って断ったるだけやから。今度はなんなんですか、新聞の勧誘やったらもう取ってるしええですよ。誰も文句言えへん日経新聞な、これとってる言うたら日本人として文句言われへんやろ。それともあれですか、受信料。まかりなりにも公務員ですし、きちーんと口座引き落としにしてますよ。きいっちり払とる俺んとこ来るなんて、暇人なんですねえ。って言うか、何時やと思とんねん、ボケ。


「遅い時間に悪いな、嶋」


 なんや、隊長やないですか。後ろには機長やないですか。こんばんは、って遅い時間やっていう自覚だけはあったんですね。そりゃ、すごい進歩や。黒岩さんらに教えてやらんと、隊長もこないに成長しはったんですよって、いえいえ、独り言ですわ。で、なんかあったんですか、二人揃ってこんな時間に。はあ、いつもの店で飲んでたらこんな時間になった。そりゃええですねえ、こっちは一人っきりで寂しく一人ごっつ見てましたわ。一人ごっつを知らへんと、そりゃ人間として間違ってると思いますよ。人間やなくて機械でしたっけ。独り言ですよ、独り言。


「今晩、泊めてちょうだい」


 嫌です、って言う前からなに人の部屋に上がりこんでるんですか。見てみぬ振りしてましたけど、隊長、その手に抱えとんのなんですか、見間違えやって言うてくださいね、支給品の寝袋に見えるんは俺の目がおかしいせいやって、ほら、今ですよ、言うてくれへんと、まかりなりにも隊長なんですから。終電がないのは分かります。何せ一人ごっつ見てるくらいですから。やからってなんで俺の部屋なんですか。さくっと隊長の部屋で二人でしっぽりしはれば良いでしょ。なんの問題もないやないですか、規則なんてないんですから。


「真田くんと二人でなんて眠れない」


 いや、なにいきなり意味深なことほざいとんのんですか。そんなん俺の知ったことやないですよ、二人で何とかしてください。なんともならん、と。そやったら、機長がこの部屋泊まればええですよ。帰れへんのやし、仕方ないことやと今日ばかりは思っときますから。隊長は自分の部屋にさっさと帰れ、その寝袋もってとっとと帰れ、え、気のせいとちゃいますよ、棘がないわけがないやないですか、副隊長ですからね、はっきり言うてるだけです。俺は高嶺んとこでも行きますし。いえいえ、遠慮なんてせんでもええんですよ、遠慮するくらいなら最初から来るな。


「ある意味、その方が心配だ」


 ある意味って、なんですか。そのかったい頭であんた何を想像しとんねん。ああ、ええです、口開かんといてください。隊長が口開いたら塞いでしまいそうや、ってなに固まってるんですか。あ、俺になんの趣味があるって? コンクリートに漬け込んで放り込んだりましょか、東京湾と言わずに、トッキューでもレスキューできひんような深海に沈めたりましょか。あんたら、アホなんやな、こんなこと忘れとった俺がバカでしたわ。ああ、好きになんてせんでくださいよ、ほんまにあんたらに関わりたないし、ってなに勝手に布団敷いてるんですか、機長。


 いつの間に機長、ちゃっかり布団に寝てるんですか。せんべい布団だとか文句言うてる場合とちゃいますよ。隊長も、慣れた手つきなんは大目に見ても、なにいそいそと寝袋広げとるんや。頭おかしいわ、知ってたけど。そんで、なんで俺まで寝袋なんですか。ここは俺の部屋と違うんですか。なんで寝袋で寝なあかんのですか。しかも、なんで俺がまん中なんですか。右側に機長で左側に隊長って、嫌がらせですか、ほんまに勘弁してくれ。ああ、言わんでええし、って言うか言うな。喋るな、口を聞くな。相合傘より悪いわ、なんやねん、ありえへん。


「「 川の字 」」


 男の面子なんてほんまにもうどおでもええわ。深夜のピンポンピンポンには何があっても出んと今日決めた。アホに付き合う俺の身にもなってくれ。