雨にも負けず
 これはなんやろ、なんなんやろう。

 ていうか、嫌がらせとちゃうか。こん人たちにはそんな気ないんやろけど。これぽっちもないんやろけど。やられた俺が、ちいともありがたみを見つけ出せずに、嫌がらせやろ、と思てまうんやから、嫌がらせに違いない。きっと、そうに違いない。
 なにがいけなかったんやろなあ。
 肩を縮こまらせて考える。珍しく、いそいそと。すたこらさっさと隊長が帰っていったのに、ええことやなあと思ったことが間違いだったのか。やれどもやれども終わりの見えへん残業に、気きかせて、先帰れ、と高嶺に言ったんも失敗だったような気がするし。隣の隊のはげの言うこと無視してもおたことも。今から考えると、全部が全部いけへんかったんかもしれん。

 でも、こんなん予想の範囲外やんか。ありえへんやんか。

 両脇には、分厚く広がった雨雲よりも圧迫感のあるツインタワー。自然と下を向いた視線の先には、アスファルトに跳ねる雨粒。軽快に進んでいる(ように見えてしゃあない)四本の足と、重たい対の足。頭の上を自由に行き交う声とは反対に、窮屈な呼吸を繰り返す、俺。

 「嶋」と聞こえて、「はい」と答えた。

「こんな日にどうして傘を持ってないの」
「たいしたことないと思ったんで」
「用意はしておくにこしたことはないだろう」
「走ればあっという間ですから」
「風邪をひくわよ」
「そんな柔じゃありませんし」
「ひいてからじゃ遅い」
「いや、ひきませんから」
「分からないじゃない」
「死んでもひきません」
「確かに死ねばひかないな」
「そこは、死んだら話にならへんとか言うところとちゃいますか」
「揚げ足をとらないの」
「すいません」
「分かればいい」

 分かりません、とはとても言えずに飲み込んだ。なんでこんなことになってるのか俺にはどうしても分かりません。放っておいてくれたほうがよっぽどましやった、なんていうわけにはいかへんし、どっちかといえば、ありがとうございます、ていわなあかんところやっていうのも分かってるつもりですけど。

 だから。

 なけなしのプラス思考を総動員させて考える。雨が降った(たいしたことはないちょろちょろ降りやけど)。俺が雨にぬれることを心配してくれた(ぬれたほうがよっぽどましやと思てまうけど)。いったい今までどこにいたんか知らんけど、二人そろって駅まで迎えに来てくれた(んやったら、なんで俺用の傘を持ってこおへんのか理解に苦しむけど)。

 迷うことのない足取りが向かっている先は明白で。そのうち確実に聞こえるだろう台詞を予想して、ため息を抑えながら冷蔵庫の中身を思い出す。ビール、冷えてる。肴、なんとでもなるやろ。我慢の限界がきた時、高嶺を叩き起こせばいい。

 両脇を歩く人の袖を引っ張ることも、腕を掴んで引き寄せることもできないから、俺は真ん中で、ただただ小さくなって歩く。
「―――雨宿り、」
 そのうちに聞こえた一言に、はい、と答えながら、考えた。

 これはなんやろ、なんなんやろう。