相合傘のまん中
『今日は一日よいお天気が続くでしょう』
 アホな天気予報士の予報が外れた時ほど、殺意を感じることはない。近くにおったら間違いなく一発殴ってやる。


 なんで、こんなところで雨に降られないかんねん、今日の天気はぴっかぴっかのお日さんマーク一個やったやんか。傘なんて全然いらんて、お天気お姉さんも言うとったやないか。なのに、なんで俺はマクドで一人外を眺めてるんですか。あのお天気お姉さん・・・あんなんババアで十分やな。お天気ババアの予報が外れるからやろ。これのどこが良いお天気やっちゅうねん、通り雨どころか、小一時間は降っとるやないか。もうちょっと小降りやったらこんなところにおらんと走ってでも帰るけどな。中途半端やねん、雨の降り方も、降っとる時間も、ええ加減にしてくれ。

 だいたい俺は突然の雨っちゅうやつが、心底嫌いやねん。置き傘だの折りたたみ傘だの自分が用意すんのも嫌いやし、ビニ傘なんてもったいのおて、買う気もせんし。それよりもっとウザイんは、その辺歩いとるやつらが、決まったように相合傘とかしだすことや。あれ見ると、もう、なんもやる気が起きんくらいにうんざりする。うんざりを通り越して、げんなりや、げんなり。何が楽しゅうて、あんな雨の中でいちゃこいてるやつらを見んとならんねん。そんなもんは家の中でこっそりとするもんなんとちゃうんか。てめえらが好きでやってることに文句は言わんけど、天下の公道で人さまのお目汚しをするんだけは、遠慮してほしいわ、ほんまに。


「「嶋」」


 へえへえ、なんですかって、隊長と機長やないですか。こんなところでどうしたんですか。はあ、雨に降られた。でもその手に持ってるの、傘とちゃうんですか。相合傘ですか、ええですねえ。隊長も機長も上にすらっとしてはるから、相合傘していちゃこいとったら、さぞや目立って人さまのお目汚しになるんでしょうね。いえ、俺はもうちょっと雨が上がるまでこうしてますし、どうぞお気遣いなく。二人がいると俺に迷惑やから、さっさと行ってもらった方が助かるんですよ、って言うか、さっさと行け、行ってまえ。いえ、こっちの話です。


「「入っていけばいい」」


 なんか今おかしなこと聞こえましたけど、気のせいですよね。ほんまにお気遣いなく。俺の目が確かなら一本しか傘ないですし。その傘に隊長と機長と相合傘してきはったんでしょ。なんで俺が入れるんですか。傘が大きいから大丈夫? そんな問題とちゃうでしょ。俺が小さいから大丈夫? 今度言うたら海に沈めたるから覚悟しとけよ、ボケ。でも、そんな問題ともちゃうでしょ。一本の傘に三人で入るなんて聞いたことないし、ありえへん。おかしいか、とか首傾げとる場合とちゃいますよ。なんで俺がこんなアホの面倒見なあかんねん。ああめんどくさ。


「ええですか、隊長も機長もよお聞いてくださいね。相合傘に右とか左とかはありますけど、まん中はないんです」


 なんで俺が相合傘のマーク書いて、ええ年した二人に説明せなあかんのですか。
 残念そうな顔したって、絶対にやりませんよ。自分が相合傘するより恥ずかしいわ。 隊長と機長みたいに背の高い人のまん中入ったら、連れられた宇宙人みたいになってまいます、俺。 だから、さっさと二人でどこへなりと行ってください。あんたらのアホに俺を巻き込まんといて、アホがうつる。 ほんまにお願いしますから、もうちょっとまともになってください。レスキューしとる時の十分の一でええから。 どんだけ俺に面倒かければ気が済むんですか。だいたい、面倒かけとる自覚があるんですか、絶対ないやろな。


 アホな天気予報士の予報が外れることより。
 隊長と機長のアホに付き合う方が覚える殺意は大きいことに、今日気が付いた。